IT導入補助金で交付決定前の契約・発注・支払いが対象外になる理由と実務上の注意点
この記事からわかること
- 交付決定より前の契約・発注・支払いは補助対象外になる
- 採択と交付決定は別物で、発注してよいのは交付決定後
- 見積の取得や社内検討は交付決定前でも問題ない
- ベンダー都合で先に着手すると、その分がまるごと自己負担になる
- 発注日を証明できる書類の日付管理が実績報告で問われる
補助金の実務でもっとも多い失敗のひとつが、交付決定を待たずに発注してしまうことです。設備やシステムの導入を急ぎたい、ベンダーの納期の都合がある、年度内に間に合わせたい——理由はさまざまですが、結果は同じで、その経費は補助対象から外れます。
数百万円規模の投資が丸ごと自己負担になるため、影響は小さくありません。本記事では、なぜこのルールがあるのか、いつから発注してよいのか、どこまでなら進めてよいのかを整理します。
ルールの内容
補助金では原則として、交付決定日より前に行った契約・発注・支払いに係る経費は補助対象外です。IT導入補助金に限らず、ものづくり補助金など多くの制度に共通する考え方です。
対象外になるのは次のような行為です。
- 発注書を出す
- 契約書を締結する
- 代金を支払う(手付金・前払金も含む)
- ベンダーに作業を開始させる
一方、次は交付決定前でも問題ありません。
- 見積を取る(相見積を含む)
- ベンダーと仕様の打ち合わせをする
- 社内で導入内容を検討・決裁する
- 導入計画を作る
つまり、準備は進めてよいが、法的な約束と金銭の授受はしてはいけないという線引きです。
なぜこのルールがあるのか
補助金は、その支援がなければ実施が難しい事業を後押しするための制度です。交付決定を待たずに発注できるということは、補助金がなくてもその投資を実行できたことを意味します。それでは補助する意味がない、というのが基本的な考え方です。
「補助金が出るかどうかわからない段階でも投資に踏み切った」という状態を、制度としては支援対象とみなさない、と理解しておくとわかりやすいでしょう。
「採択」と「交付決定」は別の段階
ここを取り違えて発注してしまうケースが少なくありません。申請から発注までの流れは次のとおりです。
交付申請 → 審査 → 採択 → 交付申請(手続き) → 交付決定 → ここから発注可
制度によって段階の呼び方や順序は多少異なりますが、採択の連絡を受けただけでは発注できないという点は共通しています。採択はあくまで「候補として選ばれた」段階で、その後の手続きを経て交付決定が出ます。
「採択されたと連絡が来たので発注した」は、対象外になる典型的なパターンです。交付決定の日付はjGrantsのマイページや通知で確認できるため、必ず記録してください。確認方法はjGrantsマイページの見方と申請状況の確認方法を参照してください。
申請全体の流れはIT導入補助金の申請手順ガイドにまとめています。
製造業が注意すべき場面
ベンダー・設備メーカーの都合で先に着手させてしまう
「納期が長いので先に手配だけしておきます」とベンダー側から提案されることがあります。善意の申し出であっても、これを受けると対象外になります。交付決定前は着手させないことを、契約前にベンダーへ明確に伝えてください。
IT導入補助金では支援事業者の理解も必要になります。ベンダー選定の観点はIT導入支援事業者(ベンダー)の選び方と注意点を参照してください。
年度末の納期に間に合わせようとする
年度内の設備導入を優先して先行発注すると、補助金を失います。補助金を使うなら、納期はスケジュールではなく制度の制約に合わせる必要があります。逆算の考え方は補助金申請の事前準備とスケジュール管理にまとめています。
リース・分割払いの起算日
リースや分割払いの場合、契約日がいつになるかで判断が変わります。支払いが交付決定後でも、契約が前であれば対象外と判断されることがあります。契約形態が通常の売買と異なる場合は、事前に事務局へ確認してください。
発注日を証明できるようにしておく
交付決定後に発注したことは、実績報告の段階で書類によって確認されます。次の日付が整合しているか、あらかじめ確認してください。
- 交付決定日
- 発注書・契約書の日付
- 納品書の日付
- 請求書・振込記録の日付
発注書の日付が交付決定日より前になっていないかが最初に見られます。口頭で発注してから後日書面を作ると日付がずれることがあるため、書面のやり取りで管理してください。
証憑の整え方は補助金の実績報告に必要な書類と製造業の証憑管理の進め方、対象経費全般の考え方は補助金の対象経費・対象外経費を製造業向けに整理する確認方法と注意点を参照してください。
先に発注してしまった場合
気づいた時点で事務局に相談してください。その経費が対象外になるだけで済むのか、事業全体が対象外と判断されるのかは、状況によります。隠したまま実績報告に進むと、後から返還を求められることがあります。
返還や取り消しになるケースは補助金の返還・取り消しになるケースと製造業が避けるべき注意点にまとめています。
よくある質問(FAQ)
Q. なぜ交付決定前の発注は対象外なのですか?
補助金は、その支援がなければ実施できない事業を後押しする制度だからです。交付決定前に発注できるということは補助金がなくても実施できたと見なされるため、対象外とされています。
Q. 採択されたら発注してよいですか?
採択と交付決定は別の段階です。採択後に交付申請を行い、交付決定を受けてはじめて発注できます。採択の連絡だけで発注すると対象外になる恐れがあります。
Q. 見積を取るのは交付決定前でも大丈夫ですか?
問題ありません。見積の取得や社内での検討、ベンダーとの打ち合わせは交付決定前に行って構いません。禁じられているのは契約・発注・支払いです。
Q. うっかり先に発注してしまいました。どうなりますか?
その経費は補助対象から外れ、自己負担になります。事業全体が対象外と判断される場合もあるため、気づいた時点で事務局に相談してください。
まとめ
交付決定より前に行った契約・発注・支払いは補助対象外です。見積の取得や社内検討、ベンダーとの打ち合わせは進めて構いませんが、法的な約束と金銭の授受は交付決定を待つ必要があります。
特に注意したいのが、採択と交付決定を混同することです。採択の連絡だけで発注すると対象外になります。交付決定の日付を必ず記録し、それ以降の日付で発注書を交わしてください。
ベンダーが善意で先に着手を申し出ることもあるため、交付決定前は着手させない旨を事前に伝えておいてください。年度内の納期を優先して先行発注すると、補助金そのものを失います。
参考情報
- IT導入補助金 公式サイト — 独立行政法人中小企業基盤整備機構
- jGrants(Jグランツ) — デジタル庁